複数テキストの可能性(本文の深い読みを/転移を促すものとしての)
比較文化論の定番教材、高階秀爾の「間の感覚」を授業で扱った。が、どうしても分からないのである。「日本の住居の空間構造は内部と外部が連続している」としておきながら、行動においては「内と外とを厳しく区別する」と指摘するのだ。この逆説的なことがなぜ発生するのか、本文には書かれていない。そのままにして読み進めては、若い人たちの「分かった」感は生まれない。さて。
こういう時はまず、原典に当たり、本文の前後はどうなっていたのかを確認する。また、(教科書作製には色々な制約があるらしく)本文の途中がカットされていることもしばしばあるので、原典と教科書とを横に並べてにらめっこすることになる。……ただ、上記の逆説については、納得のいく説明がなかった。さてさて。
ここで次の手を使う。そう、複数テキストだ。持ってきたのは、やはり日本文化論の定番、阿部謹也の「世間とは何か」、中根千枝の「タテ社会の人間関係」である。両テキストには、日本人ならではの「ウチ」と「ソト」の感覚や、ややもすれば排他的になりがちな性向についての記述があった。これらを併せて本文の理解を試みる授業を展開したが、「日本的」とはどういうことなのかについて思考をめぐらせる若い人たちの表情が印象的だった。
大学入学共通テストにおける記述式問題導入はひとまず「見送り」となった。これを受けて、年内に出題方法などを改めて発表すると言っていたはずなのに、気がつくと年の瀬が迫ってきている(早く公表してよ!)。現状としては、2019年6月7日に発表されていた、「令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト出題教科・科目の出題方法等及び大学入学共通テスト問題作成方針について」を眺めるしかない。国語の項目には次のように書かれている。
出題教科・科⽬の問題作成の⽅針
⾔語を⼿掛かりとしながら,⽂章から得られた情報を多⾯的・多⾓的な視点から解釈したり,⽬的や場⾯等に応じて⽂章を書いたりすることなどを求める。近代以降の⽂章(論理的な⽂章,⽂学的な⽂章,実⽤的な⽂章),古典(古⽂,漢⽂)といった題材を対象とし,⾔語活動の過程を重視する。問題の作成に当たっては,⼤問ごとに⼀つの題材で問題を作成するだけでなく,異なる種類や分野の⽂章などを組み合わせた,複数の題材による問題を含めて検討する。
そう、「複数テキスト」について明確に言及しているのだ。この「複数テキスト」に関しては、専門家の間でも賛否が分かれているようだが、個人的には、本文の読みを深化させ、ひいては転移を促すような、そんな可能性を秘めていると考えている(授業では、訪日外国人が増加しているグラフも提示して、これからの日本文化のあるべき姿についても意見を出し合ったりした)。ただ、以前別記事でも述べたが、より深い読みを保証するためのサブテキストを見つけて、それを適切に扱う(含 テストでの出題)ことはかなりの労力と技量を要する。研鑽あるのみ、である。