挽歌(大切なともだちへの手紙)

世の中は壊れて消えたむらきもの心くだけて影さえ見えず

小劇場主役の君がさよならと言って斃れた夢かうつつか

誓ひてし日々はいつしか変調す紫陽花の咲く池のほとりに

口元に浮かぶわずかなさみしさは最後の写真と知っていたのか

猛烈な夏の終わりに降る雨が紡いだ日々を流し去ったの

虚言癖持ってた君はいいました「ずっとあなたのそばに」、嘘つき

奥の間で幸せくれたあのひとと座敷わらしはどこにいったの

地謡が耳に残れり道成寺舞台の上に抜け殻ひとつ

持ち主の消えた自転車錆び付いて撤去の時を待ち侘びており

乱気流機体大きく揺れるたび握りしめてた君の手はなく

ハイウェイの芒は招くあのひとは川の向こうにアクセルを踏む

風が鳴る冷たき日本庭園で紅葉すかして見える追憶

湯に沈むからだは熔けてあなたへと流れ出したり闇夜の底で

汽車眠る終着駅の電話機は彼岸の君につながるかしら

君からの宿題一つ間に合わず永訣という地獄に堕ちる

当局に虐殺された記憶らは物も言えずに中空にあり

結葉の光がわたしを刺しました他殺だと皆思うはずです

松原の一本松の避雷針を立ててあなたの代わりにそこへ

あの世へとみちびくという地蔵さま早く私もさあさあ早く

悶死するほどに好きだというのなら通してやると閻魔は言った

灯台のあかりが消えた砂浜に靴を残してあなたのもとへ

那由多なる君の記憶を鎮めんと東京タワーを墓碑銘にする

あてどなくさまよう言葉乱射する届かぬものと分かっていても

手向けにと君と歩いてきた旅をしたためました見てほしかった

岬の突端に錆びたポスト立つ天上宛ての手紙を託す

祭の夜カムパネルラが見つからず賢治をめくる咳をしながら

物好きね君は笑ったあなたこそと言い返してた目が合うたびに

洋食屋ポークカツ食み「うむ」という君の台詞を一人つぶやく

二人分君の苦手な椎茸を食べてた実は僕も嫌いで

柔らかな光あふれるこの街にあなたのいない冬が来ました

凍てついた月を映した湖を眺め明かしたコーヒー二杯

地が震え雨が降る日は身を寄せてどう生きるかを考えていた

雪山に残る二人の足あとは冷たくなって見つかりました

観覧車は廻り春がまた来たよ君の香りが残るゴンドラ

爪先で桜の下を掘ってみる君の寝顔が見たくて見たくて

白バイに轢かれて君の形見散るカメラ、ケータイ、揃いの時計

ゴールデン・ウィークは悼む旅に出る自傷行為と分かっていても

桜桃忌失格という烙印を捺されてのぞく玉川の水

消えもせぬ過去は手錠となりにけり重りて河に沈む七夕

制御不能となりし怪獣の叫びはかき消されたり夏の花火に

大空に咲くをためらふ夏花のおもひは今も下燃えにけり

熱帯夜空のあなたが降らせたる星の欠片を拾って歩く

真夏日は朦朧として亡き君が見える麦わら目深にかぶる

タナトスを君の分まで背負い込んで風に吹かれる本厄の秋

どうしたらあなたを忘れられますか塚も動かぬ三日月の夜に

山頭火よどうしようもないわたくしは歩くことさえできないでいる

夢うつつに聞こえし台詞「君はまだ私のことを好きでいるかい?」

この街に溢るる君の痕跡に黒き衣を再び羽織る

ジョバンニは獏に叫んだ「哀しみを抱えて生きる、食べなくていい。」

砂に足は埋もれたままで海わたる風のあなたに手を振る 今日も

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