大学入学共通テストのシンポジウム に参加した(2019年10月13日、東京大学)
民間英語試験の全貌が未だ見えないなど、混迷を深める新入試。少しでも情報を仕入れるべく、「新共通テストの2020年度からの実施をとめよう!10.13緊急シンポジウム」に参加したので、以下に内容の概略を記す。
はじめの挨拶 中京大学 大内裕和氏
基調報告 中村高康氏(東京大学大学院 教育学研究科教授)
基本的な問題点の整理
主要論点
①英語民間試験の問題点について
京都工業繊維大学の羽藤由美氏が「科学」10月号(岩波書店)で列挙
②国語・数学の記述式の問題点について
南風原朝和氏が「科学」10月号(岩波書店)で指摘
段階評価の合理性が分からない
「窮屈な記述式」、開示に耐えられるのか
③新しい出題傾向について
問題の設定が架空かつ非現実的
全国高等学校校長協会の調査では69.1%が民間英語試験利用に反対
吉田弘幸氏の高校生に対するサンプル調査
センター試験のままで困らないが8割、新テストに不安も8割
結論 一度立ち止まるべき。過去にも改革を延期したという歴史的事実あり
紅野謙介氏(日本大学)
国語記述 相当な問題が予想される
記述には長所と短所がある。が、長所を殺して短所を伸ばす問いになっている。
「記述式試験そのものに対する冒涜」
例 プレテスト第2回 大問2(評論・マーク)
元の文章自体は面白い(「著作権2.0」)が、その良さを殺すような箇所に
傍線が引かれている。また、本来の文章の趣旨を作問者が見逃しているか、
意図的に変えていこうとしたとも思われるような問いになっている。
センター試験も問題はあったが、更にレベルが低い。従って一旦立ち止まるべき
阿部公彦氏(東京大学)
英語民間試験 なぜこんなことに?
(1)出発点:残念な「勘違い」の数々
きちんと考えるべき「なぜ、(英語が)できない?」
日本語話者特有の問題をみきわめるべき
(2)現状 3層にわたる課題
・運営上の失敗…準備不足
・構造的欠陥…民間丸投げ
・理念のいい加減さ
(3)論点
・日本語で4技能を考えると分かるが、自分で読めても自分で書けないよ
うに、すべての技能が均等に身についている訳ではない。英語でも、試験
中心で考えるあまり均等を無理に目指すとうまくいかないという懸念
・4技能分断、という誤った思想。各技能の中核はつながっている
大澤裕一氏(塾講師)
大学入学共通テスト 数学について
問題の実際
会話形式の問題が導入される。
現実の場面を想定した問題が増える。
文章量がふえる。
数学Ⅰおよび数学Ⅰ・Aでは記述式の問題が導入される。
数学の試験として適切か?
応用面、実用面のみに特化、誘導が多すぎる
会話文が読めなくて得点できないのは、数学の能力によってではない?
プレテスト記述の無回答率高し。→(初年度は)数式などを記述する問題
数式ならマークシートでも代替できる
採点者として大学生も認める方針
自己採点一致率、数学は8~9割だった、完全な一致は難しい
松本万里子氏(愛知県の高校教師、英語)
現場の混乱について
学年集会や進路講演会・面談などで新入試の話を周知
ポートフォリオ、デジタル・紙両方導入で生徒の負担増
保護者から「持ってる資格が使えないってどういうことですか」
「どれで受けたらいいのか」という質問
英語の教員は状況がころころ変わるので話したいけど話せない
2年生でどこの大学でどの民間試験が使えるか/使えないかについて、
生徒に決める力はない、そんな中で予約が始まった、酷である。
・続いて、来場者からの意見を求める時間が設定された。保護者・塾講師などから共通テストの問題点の具体的な指摘があり、一度立ち止まるべきだとする意見が数多く出された。また、来場者には高校生もいて2名が発言。「民間英語試験はどれを受ければいいのか、各検定の目的もやり方も違うはずで、同世代でも困惑している」「まわりに状況を把握している人間が一人もいない」といった生の声を上げた。
その後、大内氏を司会として各登壇者によるパネルディスカッションが展開された。
そして、「入試改革を考える会」を設立して、今後も新共通テスト実施の阻止をめざして活動する旨が述べられた。
この会に参加した感想
新テストが抱える問題点の理解は深まった。登壇した方々の「新テスト導入は一旦立ち止まって考え直すべきだ」という強い思いはひしひしと感じたが、ただし、その具体的な方策が席上で提案されることはなかった(主催者の中には、国会に赴き議員と意見交換をしている方もいることを申し添えておく)。共通ID発行の手続きが目前に迫った今、新テスト開始が延期されるとは考えにくく、高校現場としては引き続き情報収集に努め、少しでも有益な情報を得て、なるべく速やかに生徒に伝達していくしかないと改めて感じる会となった。なお、このHPの別記事で新テストの国語について実践をいくつか紹介しているが、今回の登壇者にも僭越ながら接触を試みて、実際に作問してみての実感などをお伝えした次第である。一介の国語教師にできるのはこれが関の山か。
会場には、南風原朝和氏(東京大学名誉教授)、松井孝志氏(英語教育者)、亘理陽一氏(静岡大学)、田中真美氏(高校英語教師)、吉田弘幸氏(塾講師)などの姿があった。