スタジャンの話(黒子に徹するために)
私はいつも、黒いジャンバーを着ている。
1代目は、某高校の演劇部で生徒たちが揃えて着ていたスタジャンで、背中に劇団名が書いてあった。「先生もどうぞ」と言ってくれたので、私も身に纏うようになったのだ。顧問を拝命して演劇の世界に触れた私は、1つの作品が完成に至るまでに膨大な裏方の為事が存在すると知った。「黒子」の大切さを学んだ。
私はもともと目立ちたがりだ。しかし、学校生活の主役はあくまで生徒である。自分を戒める意味も込めて、部活以外の場面でも、私はその黒いスタジャンを羽織り続けるようになった。学校を異動し、バスケット部の顧問となった後も、いつも黒づくめの格好をしていた。背中の文字は洗うたびに薄れていったが、いつしか私の一部であるかのような、そんな服となった。
今日まで着ていた2代目のスタジャンは、懇意にしていた友達が買ってくれたものだ。1代目がぼろぼろになっても無頓着だった私を見かねて、似た素材のものを探してプレゼントしてくれた。この出で立ちでないと、自分が自分でないような感覚さえ抱くようになっていたので、とてもありがたかった。苦しい時、私を包んでは助けてくれた。これを着て毎日の授業も行ってきた。
ところが、2代目との生活も長くなり、両方のポケットに穴が空いてしまった。この間、少し遠出をした時に車の鍵をポケットから落下させて紛失し、大変なことになった。死ぬまで2代目と旅を続けるつもりだったが、それは許されないのかもしれない。ここは思い切って、自分で3代目を探そう、そう思い始めた。人に頼らず、自分の道を行きなさい。そういう局面に差し掛かっているのだよと、自分に言い聞かせては納得させようとしている。