良いものを差し出すために(朝のルーティン)
朝。人のいない部屋で一日の準備を始める。20代から守ってきたルーティンだ。
誰にも侵されない準備のひととき、私は小さなミスを頻発する。白みゆく空の下、なぜか毎日のように訪れる七転八倒の時間帯。ただ、朝のトラブルは、どんなものでも落ち込まないと決めている。「大丈夫、落ち着け」そう言い聞かせて、一日に照準を合わせていく。
校内を歩く。若い人たちのいない学校は、ただの箱だ。まもなく、この箱が賑わいで満たされることを思いながら、準備を続ける。
職員室に近い机で、もう登校して勉強している人がいる。その人にはその人のルーティンがある。互いに干渉しないように気をつけながら(一方では無言のうちに共犯関係を結びながら)、それぞれの旅を続けていく。
忍び寄る影に怯えながらも、学校はひとまず再開し、若い人たちと久闊を叙した。校内のあちこちで喜びがあふれ、心湧き立つ。しかし、私は、私のルーティンを崩さない。残された時間の中で、少しでも、ほんの少しでも、良いものを差し出すために。