大学入学共通テスト本試験(2022年 1月15 日)国語分析(複数テキスト問を中心に)

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第1問(論理的文章)

問4 【文章Ⅰ】の末尾部分で述べられた「二つの極端な見方」について、両者の類似点を押さえる問い。【文章Ⅰ】のみで解く問いだが、共通点や相違点を押さえる問いは複数テキストを統合して考える問いの頻出パターンであり、それと相通ずるものを感じさせる小問だった。

問6(ⅰ)【文章Ⅰ】【文章Ⅱ】共通点や相違点を押さえる問い

(ⅱ)もし、【文章Ⅰ】しか置かれてなかったら、『よだかの星』の解釈を施す際に、問2の正答①のように、生を肯定的に捉えられないまま終わってしまう読者も多く出てしまうのではないか。しかし【文章Ⅱ】があることで、生を肯定的な意味付ける道が拓ける。そういった意味では、本テキストの分かりにくい点をサブテキストで補強していくという良くできた複数テキスト問だと言える。ただ、正答③の文言は工夫の余地がある。例えば、「無意識によだかが羽虫や甲虫を食べてしまう行為には、一つ一つの生命がもっている生きることへの衝動が反映されている。しかし見方を変えれば、その衝動こそが地球全体の生命活動を保証するような循環のプロセスを成り立たせているとも考えられる」といった感じでどうだろうか。

もう一つ、正答選択肢で用いられている「衝動」という語について触れたい。この語そのものは【文章Ⅰ】でも【文章Ⅱ】でも使われていない。しかし、例えば【文章Ⅰ】の「いかに醜くとも、いかに自分の存在を低くみようとも、(中略)大きな口をあけ、羽虫をむさぼり喰ってしまう」という一節を咀嚼して言い換えようとした時に、強めの表現だがぎりぎり許される解釈ではないかと思う。このように、踏み込んだ表現を含むものが正解選択肢となりうるということが、センター試験の終盤あたりから散見されるようになったと理解している。時代の変化には敏感であったほうが、問題を解く上でも有利に働くはずだ。

「よだかの星」の碑 (宮沢賢治記念館)

 

第2問(文学的文章)

問4(ⅰ)の正答②「怒りを抑えられなくなった」、(ⅱ)の正答①「余裕をなくして表現の一貫性を失った」は、やや妥当性に欠ける解釈だと思う。

問5 複数テキストとして歳時記を絡めるのは面白い(授業などで扱うのは深い学びを誘うだろう)。本テキストの分かりにくい点をサブテキストで補強していく点では、論理的文章の問6と同様のパターンだとも言える(リード文にいきなり案山子と雀が出てくるから、面食らうし、本文だけを読んでも「納得!」というところまではいかない)。問5があることで、案山子と雀の関係性が固定的ではないものであることが初めてくっきりと浮かび上がる。が、難を言うと、問5は(ⅰ)と(ⅱ)で問うている内容が重複している感が拭えない。

また、例えばこんなズルイ解き方もできる。(ⅰ)で正答①を選べたとする。その際、用いられる記号はa・b・ア・イである。これを踏まえて(ⅱ)に目を転じると、上記の4つの記号以外が用いられている①・②・③はすぐに候補から外れてしまう(実際に正答は⑤)。このことからも、やはり(ⅰ)は不要な問いだったような気がする。

さらに、問5は「二重傍線部」について問うているのか、本文全体における「私」の「認識の変化や心情」を問うているのかが実は揺れている。作問に四苦八苦しているうちに、目線が近くなりすぎて細かいミスを犯してしまうことがまま、ある。自戒としたい。

第3問(古文)

問2 文法事項を絡めながら内容の理解度を測る問い。文法事項のみを問う問題は昨今鳴りを潜めている。共通テストになって「思考力」というワードばかりが喧伝されがちだが、実際の問題を見るに、十分な知識(ここでは古典文法)も身に付けていないと正答にたどり着けない問いが散見される。「知識も思考力も」求められる、大変な時代が来てしまった。

問4 【文章Ⅰ】は歴史物語、【文章Ⅱ】は日記だが、両者の文体の相違点を押さえる問い。ただ、生徒たちと教師の話し合いのスクリプトを(若干だが)詳しく書きすぎているの惜しい。例えば、教師の言葉の中に「(【文章Ⅰ】は)【文章Ⅱ】のように当事者の視点から書いたものではない」とあるが、ここがZを答える上での大きなヒントになってしまっている。作問する側の立場で言うならば、もう少しスクリプトの精査を行った方が良かったのではないか。一方、受験する側の立場から言うならば、「対話文の空欄補充問題は、空欄前後の流れも十分考慮して正答を選ぶ」ことが有効だ、となる。

第4問(漢文)

問3 正答⑤の「必ず」という解釈は、恐らく「当」から来ているのだろうが、漢文の句形書に示された訳を唯一無二のものとして覚えている人にとってはつらい。ちなみに、共通テストのプレテスト(1回目)でも「当」が出題されたが、その際の正答は「きっと~だろう」だった。(プレテスト受験生の正答率はかなり低かった)。覚えた知識事項を柔軟に用いよ、と要求されているのか?

問7 【詩】とその【序文】が本文である。両者は元々連続するテキストなので、完全な「複数テキスト」の出題ではないが、両テキストの形式は違うのだから「準」複数テキストということか。ちなみに、かつて必要があって同様のテキストを探し回ったことがあるが、これは、というものはなかなか発見できなかった。見つけ出して出題するというだけでも驚異的なことなのだ。ただ、今回の問7は【詩】と【序文】両テキストの内容を足しただけの選択肢になっている。もっと言えば、正答の⑤は【序文】の内容だけで作られている。偽選択肢の中には【詩】も踏まえているものが存在するが、この不揃いも受験生をいたずらに惑わせるだろう。

以上、複数テキストを用いた問いを中心に感想を述べてみた。複数テキストの問いはまだサンプルが少ないから、その分類を試みるのはまだ尚早かもしれないが、今回の記事でも三種類の捉え方を示してみた。参考になれば幸いである。

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