大学入学共通テストを意識して(古文、複数テキストの問題例)

大学入学共通テストは、大学入試センターが発表している「問題作成の方針」によると、各大問において複数テキストを用いた問いを模索することが謳われている。以下は、かつて実力考査で出題した、複数テキストを用いた古文の問題である。実は、京都大学の2002年入試でこの2つのテキストが出題されたのだが、両者を統合するような問いを新たに作成してみた。本文の下に記したので、取り組んでいただければ幸いである。

〈文章Ⅰ〉
 この粟田殿の御男君達ぞ三人おはせしが、太郎君は福足君と申ししを、をさなき人はさのみこそはと思へど、いとあさましう、まさなう、悪しくぞおはせし。東三条殿の御賀に、この君、舞をせさせたてまつらむとて、習はせたまふほども、あやにくがりすまひたまへど、よろづにをこつり、祈りをさへして、教へ聞こえさするに、その日になりて、いみじうしたてたてまつりたまへるに、舞台の上にのぼりたまひて、ものの音調子吹き出づるほどに、「わざはひかな、あれは舞はじ」とて、鬢頬引き乱り、御装束はらはらと引き破りたまふに、粟田殿、御色真青にならせたまひて、あれかにもあらぬ御気色なり。ありとある人、「さ思ひつることよ」と見たまへど、すべきやうもなきに、御舅の中関白殿のおりて、舞台にのぼらせたまへば、「いひをこつらせたまふべきか、また、憎さにえ堪へず、追ひおろさせたまふべきか」と、かたがた見はべりしに、この君を御腰のほどに引きつけさせたまひて、御手づからいみじう舞はせたりしこそ、楽もまさりておもしろく、かの君の御恥もかくれ、その日の興もことのほかにまさりたりけれ。祖父殿もうれしと思したりけり。父おとどはさらなり、よその人だにこそ、すずろに感じたてまつりけれ。かやうに、人のためになさけなさけしきところおはしましけるに、など御末かれさせたまひにけむ。この君、人しもこそあれ、蛇れうじたまひて、その祟りにより、頭にものはれて、うせたまひにき。 (『大鏡』より)


〈文章Ⅱ〉
   福足といひ侍りける子の、遣水に菖蒲を植ゑをきて亡くなり侍りにける後の年、生ひ出でて侍りけるを見侍りて

                                                粟田右大臣

  しのべとやあやめも知らぬ心にもながからぬ世のうきに植ゑけむ  (『拾遺和歌集』)


問 〈文章Ⅰ〉・〈文章Ⅱ〉に描かれた粟田殿についての説明として最も適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。
ア 福足君が生きている間は我が子に対する憎しみに支配されていたが、不幸にして彼が亡くなってしまった後は、愛惜の情から逃れられなくなった。
イ 福足君が生きている間は我が子の無鉄砲さを心配していたが、不幸にして彼が亡くなってしまった後は、心配が現実となったことを受け入れらなかった。
ウ 福足君が生きている間は我が子への教育に力を注いだが、不幸にして彼が亡くなってしまった後は、情熱を注ぐ対象を失ったやるせなさに見舞われた。
エ 福足君が生きている間は我が子が栄華を極めることを夢見ていたが、不幸にして彼が亡くなってしまった後は、夢をかなえられなった後悔に囚われた。
オ 福足君が生きている間は我が子の幼さに翻弄されるばかりだったが、不幸にして彼が亡くなってしまった後は、生前の姿を思い出し追憶の情を抱いた。

(解答)オ


思考力・判断力を測ることを前面に出している共通テスト。ただ、あまり本格的なものばかりを並べると平均点がかなり低くなることが懸念される(実際、2回目のプレテストの平均点は90点台だった)ので、複数テキストの問題もある程度の「手加減」があるのではないかと個人的には予想している(上の問題も、PISAで言うところの「統合・解釈」に留まっている問いだと思うが、プレテストでもそのレベルのものが出題されたりしている)。一方で、プレテスト2回めの古文のように、メインテキストの読みを深化させるようなサブテキストを配置した問いというものもあり得る。ともあれ、設問の指示・流れに従って解答していくという姿勢は常に持っていたい。

※2回のプレテストの各大問の分析については、このHPに既に記事があるので、御笑覧いただきたい(タグ「国語のこと」をクリックすると見つけやすいかと思います)。

京都・下鴨神社の舞殿

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