KOTOBA Slam Japan 福岡大会に参加した

10月、11月は、あることが原因となって心がまた下向くことが予想された。Twitterのつぶやきを減らしたのもそれを防ぐためだった。そして、私自身も何かに参加するという予定を入れれば、苦しい、あの絶のつく不調に陥らずに済むのではないか、という不純な動機で、標記の大会に参加することにした。「異端」を受け入れてくださった皆様に感謝申し上げたい。参加者のことばに賭ける思いの強さに触れ、人に届くことばとはどのようなものなのかを考える、よいきっかけとなった。

この大会は、自分で紡いだことば(ジャンルは問わない)を3分間で発表するというものだ。最初は、このブログにしたためてきたことばから選ぼうと思っていたが、過去にばかり浸っていてはいけない、消えない過去は慈しみつつも、半歩踏み出す、その機会にしたいと考えて新たに書き下ろした。本番のスクリプトを以下に記すので、御笑覧いただければ幸いである。

「本日は、ご来場いただき、ありがとうございます。公演に先立ちまして……」
人間が、見えないものに翻弄され続けた2020年。不安と喧噪に満ちた世界からしばし逃れるべく、私はチケットを握りしめながら、久しぶりの劇場に胸をふくらませていた。


その時だった。急に苦しくなり、コホンと、咳を一つ、漏らしてしまう。
さっきまで前説を行っていた演出家が、すぐさま私の所に飛んできた。
「お客様、誠にすみません。速やかにここから御退出いただきますよう、お願いいたします。」
「え?」
「本公演はガイドラインに従って運営されています。何卒、御理解と御協力を…」
「いや、私は元々喘息持ちで、たまに咳が出るのです。何です、一回咳をしたぐらいで!」
周りから、冷たい空気を感じる。

「御協力いただけないというのでしたら…」
いつの間にか、警察の制服を身にまとった人たちが、演出家の後ろで睨みを効かせていた。拳銃みたいなものを持っている。警官を演じる役者なのか?それとも本物か?いや、どちらでも同じことだ。
…私は、仕方なく劇場を後にする。

ネオンサインが明滅する街。交差点には、マスクもせずに拡声器で叫ぶ人たちがいる。よく聞き取れない。その集団に、大きな男が、肩を揺らしながら近づいていく。道路の反対側から、若いカップルがその様子を撮影している。
サイレンを響かせながら、猛スピードで走り抜けていく救急車。

あてどなく、街をさまよいながら、私は、遠くにいるあなたを想う。あなたがここにいたら、この不条理に満ちた世界を、どんな科白で表現するだろうか。
私を導いてくれた、あなた。あなたのことばに、今、手を伸ばして。

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