大学入学共通テスト 記述式見送りについて(「幸福な王子」はどこへ、2019年12月17日)
2019年12月17日、文部科学大臣が会見を行い、大学入学共通テストで導入予定だった国語・数学の記述式の「見送り」を発表した。(民間英語試験の発表の際は「延期」だったが、今回は「見送り」という表現である。上に張った「冒頭発言」では、「再来年(令和3(2021)年)1月実施の大学入学共通テストにおける記述式問題の導入については、~導入見送りを判断いたしました」とあり、現1年生の時にはどうなんだ、ということが分からないような表現がなされている。もどかしい)まずもって、決定が遅すぎることに憤りを感じるというのが素直なところである。ご存じの方も多いと思うが、入試には「2年前ルール」というのがある。試験方式に大きな変更がある場合、原則2年前までに公表する、というルールだ。これを大きく逸脱している。例えば、現3年生だって、次年度の入試変更を回避すべく既に指定校推薦などで進学先を決めた人がいるはずだ。若い人たちの未来をあらぬ形で影響を及ぼすような今回の迷走だったと考える。
思考力や判断力を問おうとして記述式導入が叫ばれたのだが、50~60万規模の答案の(間違いのない)採点を(しかも経験値がさまざまな採点者が採点する中で)可能にするには、問題を易しくしたり、字数を減らしたりしないと無理だろう。もちろん、記述式問題の良さというのもある。ただ一方で、選択肢問題においても思考力・判断力を測る問題は可能だ。従来のセンター試験でも、評論や小説の最終問題は、本文の形式や内容を熟考して評価する問題が出題されていた。共通テストでの記述式実施が無理であるならば、選択肢で熟考・評価型の問題を増やすという手はある。もともとPISA調査の結果から始まった入試改革ではなかったか。思考力・判断力をどう測るかを見失っているなら、今一度原点を見返してはどうか。
これに関連して、もう一つ気になっている動きがある。大学入試センターのHPに、「大学入試センターが大学の求めに応じ記述式問題等を提供する方式」の試行調査についての掲載がある(平成30年12月27日公表)。本日の会見で大臣も口にしていた、大学入試センターが作った問題を各大学に提供し、それを各大学で採点するという形式が念頭にある代物らしい。実は、その中の大問一題は目の前の若い人たちと授業で取り組んでみたのだが、複数テキストあり、記述問あり、小論文的な問題もありで、内容も深くて面白く、割と好評だった。これを各大学が独自の尺度で採点するならば、一定の公平性も担保できるのではないか(ただ、自前でわくわくするような問題をいつも出題してくる大学には、あえて使ってほしくはないし、大学側も使いたくないだろう)。興味がある方は、大学入試センターのHPを覗いてみてほしい。
これで一件落着という訳ではない。事態はまだ落ち着いてはいない。注視し続け、微力ながら、発信を続けたい。(あれ、タイトルの「幸福な王子」はどこへいったんだろう?長くなりそうなので、また次の機会に。)