こんにちは、太宰さん(富嶽百景の世界へ、2016年12月)

富士急行 朝の富士山駅

その年、初めて授業で「富嶽百景」を扱うことになり、作品世界に触れるために山梨へと向かう。富士急行の車内で朝を迎え、赤く染まる富士に目を奪われる。河口湖駅に着いたが、バスがまだいないのでタクシーに飛び乗り、三つ峠山登山口まで運んでもらう。肌を刺す寒気。こんなに本格的な登山になるとは思わなかった。いつもの無鉄砲で行けば何とかなると突き進んだのが間違いだった。頂上は風が強くて雪も深く、これは本当に遭難するのではないかという恐怖さえ覚えた。…富士は、高く、美しかった。

三ツ峠山から望む富士

足早に山を下り、「天下茶屋」へ。冷えた体に名物のほうとうがしみる。(太宰は、自分のことを「ほうとう」者だと言われたと勘違いして腹を立てた、というエピソードが残っている。)二階は太宰が執筆のために逗留した部屋や、ちょっとした展示があり、興味深く拝見した。

休業を経て、再開を果たした御坂峠の天下茶屋

足を少し伸ばすと、有名な「富士には、月見草がよく似合う」の一節が刻まれた碑があった。裏面には井伏鱒二が寄せた文章が彫り込まれている。

碑の陰から、太宰が飛び出して来そうな錯覚に襲われた

そして3年たって、再び授業で「富嶽百景」を扱っている。驚くのは、3年前に扱った時と、自分の読みが変わっていることだ。ご存じのとおり、「富嶽百景」は主人公の「私」が自らを富士と呼応させながら日々を苦闘する話だが、この1年間、月ばかり見上げてきたせいだろうか、3年前は持っていなかった、自然と対話するかのような感覚が自分の中に芽生えていて、それが(少しだけ)深い読みを促しているような気がする。不惑を過ぎても人間は変わるものだとびっくりして、そんな不思議を可能にするのはテキストのなせる業、太宰、恐るべし!と改めて敬服したのだった。

三鷹の太宰治文学サロンにも立ち寄った

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