吹奏楽と私(「ナランペッター」)

高校在学時、私は書道部と吹奏楽部を兼部していたが、ものの性質上(合奏とかがあるので)、ほとんどの時間を吹奏楽部で過ごした。以下、例によって、ある媒体に載せた随想である。

「ナランペット」…学生時代、私はトランペットを吹いていた。が、自他ともに認める下手くそだった。それを称して顧問が言い放ったのだ、「鳴ランペット」と。悔しくも事実は事実だ、いつかカッコ良く鳴らしてみせる、と切歯扼腕の日々を送った▼厳しくて気難しい先生だった。合奏でミスを犯すと容赦なく怒った。一度、ホルストのマーチのクライマックスで私は吹き損じた。すかさず飛んでくる大声。「こんなところで間違うなんて×××!!(×××は思い出すたびに震えるので伏せておく)」しかし、私はその先生のことが好きだった。心から音楽を愛している人だったし、何より、私のような下手な生徒にも(中途半端な情けを掛けたりなどせずに)真剣に向き合ってくれた。自分でもうまく吹けたと思った時、たった一度だけ「少し上達したんじゃないか」と言ってくれたことが忘れられない▼最後の大会が終わり、重い足取りで高校に帰り着いた時、先生は引退する私たちにこう言った。「これからも音楽を続けてほしい。続けることは才能である」そして私は大学でもナランペットを手放さず、苦しくも楽しい日々を送ることになるのである▼これからという時に、先生は病に倒れた。今でも、先生のタクトで吹いたファンファーレがどこからか聞こえてくると、一気にあの頃へとタイムトリップするのである。

―――――――――――――――――――――――

先生、私はもう少しだけ私は足掻いてみます。見守っていてくださいね。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です